調査/Investigation

調査の基本は目視や各種の科学的手法を用いた調査で、それらと併せて時代や様式、地域性等における類例も調査します。近年では人間の経験値よりも客観的データが重視されがちですが、部分的に抽出されたデータを繋ぎ合わせ、装飾の意味や制作の手続きを含めた姿を導き出すためには、やはり豊富な経験値が不可欠です。一方で、経験による固定概念に縛られず、実存する対象物をつぶさに観察し次世代に正しい情報を伝えることが重要だと考えます。

目視調査

目視によって、実存する彩色の状態や痕跡を確認し、記録します。


トレース

対象物の上にPETフィルムを当て、現状の状態を詳細に記録します。

類例調査

時代や地勢、流派等について類似の物件を調査することで、技法や材料等の決定に於ける判断材料を増やします。

光学調査

斜光、赤外線、紫外線、X線を使用して、通常光で見えない部分を調査します。


斜光調査

斜光ライトと呼ばれる照明機器を使用して、主に彩色や部材表面の経年劣化による凹凸を観察します。

赤外線調査

赤外線ライトと赤外線撮影ができるカメラを使用して、絵具の退色や、ロウソクや線香などの油煙あるいは埃等の堆積で見え難くい状態の絵を観察します。

紫外線調査

紫外線ライトを使用して、彩色に使用されている色料の特性を観察します。

X線調査

X線撮影装置を使用して、物体の内部構造を観察します。

成分分析

各種の分析装置を使用し、絵具の顔料やバインダー(接着成分)を特定します。


蛍光X線分析・走査型電子顕微鏡調査

試料にX線を当て、含まれる元素の種類と量の情報を得る手法で、主に顔料を特定するために利用します。

同じくX線により、超高倍率で物質の表面を観察できる電子顕微鏡と一緒に使います。

赤外線分光法

試料に赤外線を当て、得られるスペクトル情報から、分子の状態を分析する手法です。

主としてバインダーにおける膠とカゼイン、または漆と油の種別の特定に利用します。

ガスクロマトグラフィー質量分析法

試料を高温で気化させ、そこに含まれる成分の情報を得る手法です。

主としてバインダーにおける膠とカゼイン、または漆と油の種別の特定に利用します。

実体顕微鏡調査

比較的低倍率の顕微鏡を使用して、試料をそのままの状態で観察する手法で、主に顔料や塗膜片の観察を行います。