チャン塗りの基本施工工程

チャン塗りとは、バインダーに「チャン油」を使用した塗料で塗装を行う伝統技法です。油という漢字が付くとおり油性塗料に分類されますが、一時期ほぼ完全に廃れた状態になっていました。

世界的に見ても伝統的な塗装では、油性と水性の材料や技法が確認できますが、日本では膠と漆に関わる技術が飛躍的に高かったため、油性塗料はあまり注目されず、また近代化に伴って特に油性塗料は工業材料への置換えが容易であったことから、伝承が途絶えたと考えられます。

弊社では過去の調査業務において、膠とも漆とも判断がつき難い事例を数多く経験する中で、予々油性塗料の存在を模索しており、独自にチャン油に関わる材料や技法の資料収集と試作を通じて復刻を試み、最終的に実際の修復において採用されるに至りました。他方、全国各地の修復や保全に関る関係者の調査や分析技術の発達に伴い、この油性塗料による事例が以外と多くあるかもしれないことも分かってきました。

「チャン」の名称の由来にはいくつかの説がありますが、弊社では松脂のことを指していたと考えており、チャン油とは煮熟して乾燥性を高めた荏胡麻油に、天然樹脂である松脂を加えて艶性や塗膜強度を上げたものであったと想定しています。いずれにしても伝統技法は、総じて材料や手法共に地域毎の環境の影響が大きく、画一的ではなかったと考えられることから、研究が進むことによって材料や塗料の製法にも様々な異なる事例が出てくると思いますが、弊社の取組みもその一助になることを期待しています。

チャン油制作

チャン油は市販されておらず、自社で作る必要があります。本例ではある古文書の例に則り、

  1. 荏胡麻油(乾性油)
  2. 松脂(樹脂成分)
  3. 密陀僧(乾燥促進剤)
  4. 薫陸(樹脂成分/芳香成分)
  5. 乳香(樹脂成分/芳香成分)
  6. 唐辛子(乾燥促進剤)

を加える制作過程を示します。

しかしながら、チャン油についてはベースが荏胡麻油であるという共通点以外、添加物や製法について他のやり方も存在します。



色チャン制作

色チャンとは、顔料にチャン油を加えて作った塗料を指します。作り方は膠での塗料作りなどと同様で、顔料に少なめのチャン油を加え、よく練り込んでペースト状にした後に、必要な粘度になるようにチャン油を加えて伸ばします。

もともと乾燥性は高い方ではないので、塗装環境によっては油絵の具用の乾燥剤を添加する場合もあります。



チャン塗り

古材における復原作業では、木地の吸込みが大きい場合が多く、吸込みが強すぎると乾燥不良に繋がる可能性があるため、予め礬水引きを行い、吸込みを押さえるようにします。

チャン塗りにおいても、他の塗装同様に厚塗りを避け、複数回塗り重ねて仕上げます。



施工例

神社社殿

寺院経蔵