彩色強化紙カバーの基本施工手順

強化紙とは

強化紙は木材繊維を主原料とした非常に硬質なボード状の紙で、強靱性が必要な梱包用部材や靴の中底の構造材等として使われています。

材料の強度を図る際の重要な機械的性質の一つとして「引張り強度」があります。これは材料を一定の力で引き延ばして 破断に至るまでに耐えた数値を基に計算されます。強化紙は一 般的な樹脂素材よりも優れた特性を持つ一方で、軽さや曲げ加工の容易、吸湿性等、紙独自の特性を併せ持ちます。

主な材料の引張り強度



採寸・裁断

カバーを取付ける部材や、取付け箇所に付いて採寸を行います。古建築は歪み等も内在しているので、数字を計るのみならず、同時に紙を当てて型取りします。その後必要な形状や数量をまとめた後、1枚の原紙から効率の良い部品の取り数を決めるためのパターン設計をし、設計に基づいて強化紙を裁断します。強化紙は一般的な樹脂板よりも硬いため、曲線のカット等では糸のこ盤等の電動工具も使用します。



成形・漆含浸

これほどまでに強靭な強化紙ですが、紙の特性を持ち合わせているため、治具を使用しながら水分や温度をコントロールすることで、曲げ加工後にも形状を維持することが可能です。

更に生漆を塗布して含浸させることで、乾燥後は更に形状が固定され、また漆の特性である防腐性や防虫性も付与されます。

漆工技法のひとつに、布や紙に漆を塗り固めて形状を作る「乾漆」というものがありますが、強化紙カバーの形状固定方法はこれに相似する考え方と言え、文化財や伝統建築の復原に適していると考えます。(現代のプラスチック成形技術であるFRPは、同じ原理をガラス繊維と樹脂で置換えたもの)



彩色復原

復原の項目で紹介したのと同じ手法と工程で、強化紙カバーの上に彩色を施していきます。基材が紙と漆なので、彩色についても伝統工法がそのまま応用できます。



取付け

彩色された強化紙カバーは、ビスや他の固定用補助部材で対象箇所に取付けます。通常の紙彩色と異なり、全体を糊で貼る訳ではないため、下層の状態を維持したまま、伝統工法による彩色復原の外観を得ることができます。

強化紙カバーは軽量なため、耐震や落下による事故防止の観点からも優れます。



施工例

寺院本堂

近代建築の本堂における、内外陣の荘厳彩色の保全を目的として、特に破損が著しい柱巻きについて採用された例です。漆喰層の上に施されていた彩色層は剥落止め保存し、その上に周囲と併せた色調の復元彩色を行ったカバーを取付けました。