漆塗り

漆塗りでは、木地の状態や最終的な仕上がり、また加飾(工芸技法によって表面に装飾を加えること)に応じて工程が大きく変わります。実際の漆塗りでは、使用される材料や工程の呼び方が多岐に渡りますが、以下の例では標準的な黒漆塗りの古材に、木部修理が加えられたものについての概要を示します。

木地調整

漆に限らず、塗装で美しい仕上がりを得るには、下地がきれいであることが重要です。

特に古材を再利用する場合は、木地の劣化に加え、旧来の塗装の残留や木工の修理など、塗装表面に影響を与える要素が非常に多いため、それらを丹念に修正する必要があります。

木地調整では、主に表面を平滑にする地ならし的な作業と、木地を堅牢にしつつ安定した木地表面の状態を得るために生漆を塗る「木地固め」を行います。



布着せ

木地を堅牢にし、欠けやひび割れ等を防ぐ目的と同時に、厚み感のある美しい仕上がりを得るために、表面に布を貼付けて固める技法を「布着せ」と言います。

建築物における修復の場合は、主にひび割れや部分修理の継目等で、経年後の痩せや段差を発生し難くする目的で行います。

布着せでは、一般的に麻布や綿糸を粗く平織りにした「寒冷紗」という布を用い、接着には漆に糊を混ぜた「糊漆」を使用します。

布着せ後は、再び全体に錆付けを行い、表面を研いで平滑に仕上げます。



錆付け・錆研ぎ

生漆に砥の粉や地の粉を混ぜてパテ状に練った「漆錆」を木地の表面に塗り、乾燥させた後に水研ぎを行って表面を平滑にします。塗装前の下地の段階で、平滑に仕上げておくことが仕上がりの美しさに直結する重要な作業です。

厚みを付けすぎると割れの原因や、組付け時の寸法に影響が出たり、逆に研ぎ過ぎて部分的に木地が出ると、塗装の艶に斑等が発生するため、薄くかつ平滑に仕上げるには技術が必要です。



塗り

下地が仕上った後、いよいよ塗りに入ります。塗りは下塗り、中塗り、上塗りの3回を基本としますが、細部の修正の有無や仕上がり具合によっては、それ以上の回数を重ねることもあります。

また各段階では、塗装の密着をよくする目的で、砥石や耐水ペーパーを使用して表面を水研ぎします。(仕上がりに近くなる程細かな目の砥石を使い、傷が入らないようにします)



施工例

須弥壇

扁額

調査の結果、螺鈿細工が施されていたことが分かった、非常に珍しい扁額。